2007-04-17
小津映画の晩年の作。カラー作品であった。
「晩春」では婚期の遅れた娘を嫁がせる筋書きであったがこれは旬のままの娘を嫁がせよう、という筋。娘役は岩下志麻、父は笠智衆である。暗くなりがちなテーマの映画であるがピチピチ若い岩下志麻が画面を明るくしてくれる。
一方、人生の苦渋が顔一杯に漂う演技が冴える東野英治郎は老齢の恩師の役で今はしがないラーメン屋。その娘役に杉村春子が出ている。婚期に嫁がせられず、妻代わり、店員代わりに重宝してしまったことへの悔いが酔った勢いで吐き出される。
秋刀魚の味とはこうした人生のほろ苦さを暗示させようというものか。家庭を築き、子が生まれ、また其々に旅立っていく、人生とはそういうものと、輪廻転生が繰り返される。
現代家庭ではもう一つ苦難が加わった。介護である。長い間、夫の嫁が役割を担ってきたが近年は法律ができて社会化された。小津映画の時代は男なら55歳で定年退職し、60歳代で死んだ。今は80歳は珍しくないし90歳、100歳も居る。本人が元気なら未だしも病床に臥せっている場合は深刻だ。長生きはリスクという認識が深まっている。
小津さんが亡くなって40年余り。生きておればどんな作品を生んだだろうか。
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